「ひとくち、ってどのくらいですか?」
ある日のランチ営業中。
常連のお客様との雑談のなかで、ふとこんなお話が出ました。
「女将さん、“ひとくちサイズ”って言うけど、それってどれくらい? 私けっこう大きめに口開けちゃうのよねぇ。」
その場にいたお友だちも、くすくす笑いながら「わたしも気になります」とうなずいていました。
それを聞いた私は、こんなふうにお返ししました。
「“美味しく見える食べ方”って、実は“上品な一口”にあると思うですよね。」
和食の「ひとくち」は、口におさまるだけじゃない
和食の作法では、「一口の量」がとても大切にされています。
ただ「口に入ればOK」ではなく、口元が美しく見えるかどうか、食べる姿が丁寧かどうかがポイントなのです。
たとえば──
・おにぎりや寿司:女性であれば、口の開きが小さくて済むサイズが理想
・煮物や焼き魚:箸でほぐして、一口ずつていねいに運ぶ
・口を閉じたまま、無理なくもぐもぐと噛める量
見た目の美しさも大切ですが、食べる本人が「ゆっくり味わえる量」を意識することが、上品な印象につながります。
大将のこだわり「ちょっと小さめに盛る理由」
実は、やまにでお出しする煮物や天ぷら、盛りつけるときのサイズ感には、大将なりのこだわりがあります。
「盛りすぎると、口いっぱいになって“味がわからなくなる”。
一口で“何か感じてもらえる”くらいが、料理にとってはちょうどいい。」
そう話しながら、大将は天ぷらを揚げるときも「衣を軽く」「厚さは控えめに」と気を配っています。
食材の味や香り、余韻まで楽しんでもらうためには、小さな一口の中に“すべて”を込めるのだそうです。
上品な「ひとくち」の基本3ポイント
では実際に、どんなことに気をつければ「美しい一口」になるのでしょうか?
✅ 無理なく箸で取りやすいサイズに整える
✅ 口に入れる前に食材を見て「いただきます」の気持ちを忘れない
✅ 口を閉じて静かに噛み、口元をあまり動かさずにいただく
この3つだけで、驚くほど所作が変わって見えます。
大きく食べるのが悪いわけじゃない
ここで誤解してほしくないのは、大きく頬ばって食べることが悪いというわけではないということ。
家族や仲間と、にこにこ笑いながら食べるおにぎり。
熱々の天丼を、豪快にほおばる瞬間もまた、食のよろこびです。
でも、少しかしこまった席や、誰かのおもてなしを受ける場では、
そのひとくちを「上品に」いただくことが、食卓の空気を和やかに整えることにもつながります。
女将よりひとこと|“ひとくち”に美しさを込めて
お料理は、口に入るまでが“作品”。
そして、食べてくださるそのひとくちが、美しいとき──
私たち作り手は「ちゃんと届いた」と感じられるのです。
大きな口で笑って、
ときにはそっと、控えめな一口で。
どちらも素敵だけれど、
“所作美人”を目指すなら、今日のごはんから「ひとくち」をちょっと意識してみてくださいね。
執筆:やまに女将/ふだんの所作に和の美しさを


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