箸置きに込められた心──なくてもいい、でも知っておきたい和のたしなみ

おもてなしの心

「箸置きって、使った方がいいんですか?」

お客様から、こんなご質問をいただいたことがあります。

「ランチのとき、箸置きがないのが意外でした。でも、和食って“箸置きはマナー”って聞いたことがあって…」

にこやかに話しかけてくださったその方に、私はこうお答えしました。

「はい、それは“正式な場”では大切なものなんですよ。でも、やまにのランチは“ほっとできる日常の時間”を意識していて…気を張りすぎない和食も、あっていいと思うんです。」

そもそも、箸置きの役割とは?

箸置きとは、お箸の“先”を直接テーブルにつけないようにするための道具です。
使い終わった箸先には食べ物の汁や調味料がついていることが多いため、テーブルを汚さないように、また清潔に保つという目的があります。

また、箸置きを使うこと自体が、「食事の所作に気を配れる人」という印象にもつながります。
料亭や会席料理など、改まった席では必ず用意されており、
使わない=マナー違反と捉えられてしまうこともあります。

箸置きがなくても、恥ずかしくない

ですが、毎日の食卓やカジュアルな和食店では、必ずしも箸置きを使う必要はありません。
実際、やまにのように「日常の食事として、気軽に和食を楽しんでいただく」場面では、
お箸を器の上に置くスタイルもごく自然な形です。

昔の日本の家庭では、お膳の端にお箸を置くのが一般的で、
それがそのまま現代にも受け継がれているのですね。

ただし、お箸を器に“渡す”ように置く「渡し箸」や、器の縁に突き刺すような「刺し箸」など、
避けたい置き方もありますので、最低限のマナーだけ覚えておけば安心です。

知っておくと、ちょっと素敵な存在

箸置きを使わない選択は自由ですが、知っておくと心が豊かになる場面もあります。

たとえば──

お祝いの席に、季節の箸置きを添えてみる

来客時に、少しだけ丁寧に迎えるために出してみる

子どもに「箸置きって何のためにあるの?」と聞かれたときに説明できる

そんな瞬間に、「あぁ、和の文化って、やっぱりいいな」と感じるのです。

やまにの“おもてなし”は、箸置きの代わりに心で添える

やまにのランチには、箸置きは出しておりません。
でもそのかわりに、おしぼりを清潔にお出しすること、
お膳の配置を美しく整えること、
器をきちんと手で置くこと──

そうした、見えにくいけれどあたたかい“おもてなしの心”を大切にしています。

もし「箸置きがあったらうれしいな」と思われる方がいれば、
そのときはご遠慮なくお声をかけてくださいね。
そっと、ひとつ季節の箸置きをお持ちいたします。

執筆:やまに女将/ふだんの食卓に和の学びを

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